ハナミズキの実は鮮度が命

初夏の風が心地よくなり、街路樹が日差しの中でそよぐ頃、ふと足元に目をやると、ハナミズキの枝先がほんのり赤く色づいているのに気がつくことがあります。その花が咲く春、白やピンクの可憐な花びらで私たちの目を楽しませてくれたハナミズキですが、夏から秋へと移る頃には、今度は小さな赤い実が静かに存在感を放つのです。このハナミズキの実――実は意外なほど知られていない、不思議で美しい季節の彩りのひとつです。

花が咲き終わり、葉が濃い緑色に変わると、ハナミズキは静かに次の物語を準備し始めます。細い枝先には、やがて小さな青い実がつき、それが少しずつ赤く染まっていきます。その姿はまるで、夏の終わりと秋の始まりをそっと告げるサイン。道端の何気ないハナミズキの木も、こうして四季を巡る小さなドラマを見せてくれているのです。

そもそも、ハナミズキの実とはどんなものなのでしょうか。長さは1cmにも満たないほどで、艶のある赤や濃いピンクに色づきます。一房に数個まとまってつき、遠目には控えめですが、近くでじっと観察すると、その鮮やかさに思わずハッとします。ひとつひとつの実が、まるでルビーの粒のよう。葉が黄色や赤色に染まる季節には、そのコントラストが本当に見事で、写真好きの人たちの間では秋の人気被写体にもなっています。

では、このハナミズキの実、私たちの生活や文化の中でどんな意味を持っているのでしょうか。意外かもしれませんが、食用には向きません。果肉には微量の毒性成分が含まれていて、人間が口にするとお腹を壊してしまうことがあるのです。そのため、「美味しそう!」と思っても手を出さないのが鉄則。ただし、この小さな実は、野鳥たちには大切なごちそう。特にヒヨドリやツグミ、ムクドリといった鳥たちは、ハナミズキの実を冬にかけてついばみ、厳しい季節を生き抜くエネルギー源としています。

秋から冬にかけて、ハナミズキの木の下でじっと空を見上げてみてください。葉が落ちた枝先に、赤い実がぽつぽつと残る様子は、少し寂しげでもありながら、どこか暖かさを感じさせます。そして、その実を狙ってやってくる小鳥たちの姿には、自然界の命のリレーが見てとれます。食べては飛び立ち、また別の場所で休みながら、また実を食べる。その繰り返しが、季節の変化をじんわりと実感させてくれるのです。

私自身、子どもの頃からハナミズキのある道をよく歩いていました。春の花はもちろんですが、秋に実がつく頃になると、なぜかその木の下で立ち止まりたくなります。赤い実をじっと見つめていると、小さな虫や鳥たちがせわしなく動き回っていて、「ああ、この木は人間だけじゃなく、他の生き物たちにとっても大事な存在なんだな」と素直に感じることができました。自然の小さな循環を、身近に感じられる大切なひとときだったと思います。

また、ハナミズキの実にはロマンチックなエピソードも少なくありません。秋のデートコースや散歩道で、落ち葉の絨毯にそっと転がる赤い実を見つけて、恋人同士がそれをそっと拾い合う――そんなシーンは、文学や映画の中でもたびたび描かれてきました。「この実をふたりで拾えば、幸せが訪れる」なんて、根拠のない噂を本気で信じていた青春時代も、誰しも一度はあるかもしれません。たった一粒の実が、静かにふたりの思い出を包み込んでくれる――そんな温かな記憶を胸に、今も時折ハナミズキの木を見上げてしまいます。

ところで、ハナミズキ自体のストーリーにも少し触れてみましょう。もともとハナミズキは、北米原産の樹木です。20世紀初頭、東京市からアメリカ・ワシントンD.C.へ桜を贈った返礼として、ハナミズキが日本にやってきました。それから約100年、日本の風景の一部となり、多くの人に愛されてきたのです。公園や街路樹、庭木として今やどこにでも見かける存在ですが、実は「平和」や「友情」を象徴する樹でもあります。

春の花、秋の実、冬の枝ぶり。どの季節にもハナミズキは、さりげない美しさを持っています。特に、花が終わったあとの実の時期は、あまり注目されないものの、実は(まさに“実”ですが)とても奥深い時間なのです。実の色づき方、枝先に残るバランス、秋風に揺れる様子――静かな感動がそこに潜んでいます。

それに加えて、ハナミズキの実がもつ“もうひとつの魅力”として、リースやアレンジメントなど、秋冬のフラワーインテリアの素材として重宝されている点も見逃せません。赤い実をあしらったリースやスワッグは、部屋に飾るだけで、ほのかな季節感と温もりを運んでくれます。自然素材ならではの素朴な味わいが、近年のナチュラル志向の暮らしにもぴったりです。拾った実をガラス瓶に詰めて飾ったり、子どもと一緒にクラフトに使ってみるのも、秋の日々の思い出になります。

ただ、ハナミズキの実は鮮度が命。乾燥しやすいので、拾ったら早めに使うのがコツです。もし色鮮やかなまま飾りたいときは、シリカゲルなどを使ってドライに仕上げると、色あせも防げます。実際に試してみると、部屋の中に小さな秋が広がるような、やさしい気持ちになります。

さらに、ハナミズキの実はガーデニング好きの間では“新たな命の種”としても知られています。秋に実を採取し、土に埋めて冬を越すことで、翌春には小さな芽が顔を出すことも。自宅の庭に、世代を超えて命が受け継がれる。そんな体験を通して、植物の力強さや命のつながりを実感できるのは、何にも代えがたい喜びです。